問題の所在
渦運動を扱うとき、有限の太さを持つ領域に渦度が分布している場合には、流体力学体インパルスを
$$
\B{I} = \frac{1}{2} \int \B{x}\times\B{\omega}\,\diff V
$$
によって定義できる。
しかし、理論的な解析では、しばしば渦度が有限の太さの領域に分布しているのではなく、一本の曲線上に集中しているとみなすことが多い。このような理想化された渦を線渦または渦糸と呼ぶ。
線渦は、渦輪や渦糸近似を考えるうえで基本的なモデルである。渦輪を細い渦管として近似すれば、その中心線に沿って渦度が集中した線渦として扱える。したがって、線渦に対してインパルスをどのように定義するかは、渦輪の力学を理解するうえでも重要である。
今回の主題は、線渦のような特異な渦度分布を流体力学的インパルスの式に適用しても、有限な意味ある結果が得られることを示すことである。
線渦とは何か?
線渦とは、渦度が一本の曲線上に集中した理想化モデルである。今、線渦の中心線を
$$
\B{R}(s)
$$
で表そう。ここで $s$ は曲線に沿ったパラメータである。また、線渦の強さ、すなわち循環を $\Gamma$ とする。これは、以下のように、線渦を囲む単純閉曲線に沿って速度を線積分した量である。
$$
\Gamma = \oint \B{u}\cdot \diff \B{x}
$$
線渦では、渦度は通常の関数ではなく、曲線上に集中したデルタ関数的な分布になる。そのため、通常の体積分布を前提とした式にそのまま適用してよいのか?、という疑問が生じる。
しかし、流体力学的インパルスや角運動量インパルスに関しては、線渦の特異性を含めても有限な式が得られる。これは、線渦近似を用いる大きな利点である。次節以降で具体的に説明していく。
線渦のインパルス
最初に結論を示すと、線渦の流体力学体インパルスは、次の形で与えられる。
$$
\B{I} = \frac{\Gamma}{2} \int \B{R}\times \diff \B{R} \tag{3.1}
$$
ここで、$\diff \B{R}$ は線渦に沿った微小線素である。この式は、もとの流体力学的インパルス
$$
\B{I} = \frac{1}{2} \int \B{x}\times\B{\omega}\,\diff V
$$
に、線渦の特異な渦度分布を代入した結果である。
太い渦管を考え、その断面を十分小さくしていくと、断面内の渦度積分は循環 $\Gamma$ になる。残るのは中心線に沿った積分である。したがって、体積積分は線積分へ縮約される。
この式の重要な点は、線渦のインパルスが、渦糸の幾何形状によって決まることである。すなわち、線渦のどこに渦度があるか、その曲線が空間内でどのような面積を囲むかが、インパルスを決める要素となる。
導出過程
$(3.1)$ を示そう。まず、渦線の中心線 $\B{R}(s)$ とすると、線素 $\diff \B{R}$ について、
$$
\diff \B{R} = \ff{ \diff \B{R} }{ \diff s } \diff s = \B{t}\, \diff s \tag{a}
$$
という関係が導ける。なお、$\B{t}$ は中心線に対する、単位接線ベクトルである。
すこし寄り道をするが、ここである面を貫く渦度と循環が、ストークスの定理から以下の関係で結ばれることに注意して欲しい。(ヘルムホルツの渦定理より、線渦の循環はどの断面でも一定であると考えて良い)
$$
\int_S \B{\om}\cdot \B{n}\,\diff S = \int_S (\nabla \times \B{u})\cdot \B{n}\,\diff S = \oint_{C} \B{u}\cdot\, \diff \B{x} = \G
$$
この結果を考慮し、また今、$\B{n} = \B{t}$ と置き換えられることより、
$$
\G = \int_S \B{\om}\cdot \B{t}\,\diff S \tag{3.2}
$$
であることが言える。ここで、$S$ の範囲に渦度が一様に分布していると仮定すれば、$(3.2)$ はこのように計算できる。
$$
\G = (\B{\om}\cdot \B{t})\, S \EE
\therefore\, \B{\om}\cdot \B{t} = \ff{\G}{S} \tag{3.3}
$$
次に、渦度が線上に集中しているモデルを考えたいので、断面積 $S$ をゼロに近づける極限($S \to 0$)を考える。この結果を表現するに際して、デルタ関数 $\delta (\B{x})$ を利用する。なお、今回の場合は、渦が曲線 $\B{R}(s)$ 上にあることも考慮すると、$(3.3)$ は次のように置き換えられる。
$$
\B{\om}\cdot \B{t} = \ff{\G}{S} \approx \G\,\delta \big(\B{x}-\B{R}(s) \big) \EE
\therefore\, \B{\om} = \G\,\delta(\B{x}-R(s))\B{t} \tag{3.4}
$$
少しややこしいが、上の結果は線上の、線素についての結果なので、渦線全体の渦度 $\B{\om}$ については線積分を用いて、
$$
\B{\om} = \int \G\, \delta(\B{x}-\B{R}(s))\B{t}\, \diff s \tag{3.5}
$$
としなければならない。
ようやく、最初の話題に戻るが、これらの対応を流体力学的インパルスの式に適用し、また積分に対するデルタ関数の性質を利用すると、このように計算できる。
$$
\begin{split}
\B{I} &= \frac{1}{2} \int \B{x}\times\B{\omega}\,\diff V \EE
&= \frac{1}{2} \int \B{x}\times \left[ \int \G\, \delta(\B{x}-\B{R}(s))\B{t}\, \diff s \right] \,\diff V \EE
&= \frac{\G}{2} \iint \B{x}\times \delta(\B{x}-\B{R}(s))\,\B{t}\diff s\, \diff V \EE
&= \frac{\G}{2} \iint \Big( \B{x}\times \B{t}\diff s \Big) \delta(\B{x}-R(s))\,\, \diff V \EE
&= \frac{\G}{2} \int \B{R}(s)\times \B{t}\diff s
\end{split}
$$
最後に、$(a)$ の対応を適用することで、
$$
\B{I} = \frac{\Gamma}{2} \int \B{R}\times \diff \B{R}
$$
という結果が導ける。
線渦の角運動量インパルス
同様に、線渦の角運動量インパルスは
$$
\B{A} = -\frac{\Gamma}{2} \int R^2\,\diff \B{R} \tag{4.1}
$$
の形で与えられる。ここで
$$
R^2=\B{R}\cdot \B{R}
$$
である。
角運動量インパルスは、線渦が持つ回転的な性質を表す量である。流体力学的インパルスが並進的な運動量に対応する量であるのに対し、角運動量インパルスは角運動量に対応する量として理解できる。
線渦モデルでは、これらの量がすべて渦糸の中心線 $\B{R}(s)$ の積分によって表される。これは、渦輪や渦糸の運動を幾何学的に理解するうえで非常に有用である。
導出過程
$(4.1)$ を導くにあたり、渦度で表した以下の角運動量インパルスの式を用いる。
$$
\B{A} = -\frac{1}{2} \int |\B{x}|^2\,\B{\om}\,\diff V = -\frac{1}{2} \int x^2\,\B{\om}\,\diff V \tag{4.2}
$$
$(4.2)$ に $(3.5)$ を適用して計算すると、
$$
\begin{split}
\B{A} &= -\frac{1}{2} \int x^2\,\B{\om}\,\diff V \EE
&= -\frac{1}{2} \int x^2\,\left[ \int \G\, \delta(\B{x}-\B{R}(s))\B{t}\, \diff s \right]\,\diff V \EE
&= -\frac{\G}{2} \iint \big( x^2\,\B{t}\, \diff s \big) \delta(\B{x}-\B{R}(s))\,\diff V \EE
&= -\frac{\G}{2} \int \B{R}(s)^2\,\B{t}\, \diff s \EE
\end{split}
$$
最後に、$(a)$ の対応を適用することで、
$$
\B{A} = -\frac{\Gamma}{2} \int R^2\, \diff \B{R}
$$
という結果が導ける。
渦輪の場合
さて、線渦の代表例は円形の渦輪である。今、半径 $R$ の円形渦輪を考えよう。渦輪は、ある平面内に置かれた円形の線渦であり、循環を $\Gamma$ とする。このときの流体力学的インパルスの大きさを計算してみよう。
半径 $R$ の円形渦輪を $xy$ 平面上に置くと、中心線は、
$$
\B{R}(\q) = (R\cos\q, R\sin\q, 0) \tag{5.1}
$$
また、
$$
\diff \B{R}(\q) = (-R\sin\q, R\cos\q, 0)\diff \q \tag{5.2}
$$
である。外積を計算すると、このようになる。
$$
\B{R}(\q)\times \diff \B{R}(\q) = (0, 0, R^2)\diff \q \tag{5.3}
$$
よって、流体力学的インパルスは $(3.1)$ より、
$$
\begin{split}
\B{I} &= \frac{\Gamma}{2} \int \B{R}\times \diff \B{R} \EE
&= \frac{\Gamma}{2} \int_0^{2\pi} (0, 0, R^2)\diff \q \EE
&= \big( 0, 0, \pi \Gamma R^2 \big)
\end{split}
$$
したがって、流体力学的インパルスの大きさは、
$$
I = \pi \Gamma R^2 \tag{5.4}
$$
である。そして、向きは渦輪の軸方向である。すなわち、渦輪の進行方向に沿ったベクトルとして流体力学的インパルスが定まる。
この結果はまた、渦輪のインパルスが、循環 $\Gamma$ と渦輪が囲む面積 $\pi R^2$ の積に等しいことを示している。つまり、渦輪の流体力学的インパルスは
$$
\boxed{
\text{循環} \times \text{面積}
} \tag{5.5}
$$
としても解釈できるのである。
これは、渦輪の運動を考えるうえで基本的な関係である。渦輪が大きな半径を持つほど、また循環が大きいほど、流体力学的インパルスも大きくなるということである。
速度ポテンシャルと多価性
今回の仮定に従えば、線渦の外側では渦度は存在しない。したがって、渦糸を除いた領域では流れは渦なし(=ポテンシャル流れ)である。つまり、
$$
\nabla\times\B{u}=0
$$
そのため、速度場は局所的には速度ポテンシャル $\phi$ によって
$$
\B{u}=\nabla\phi
$$
と記述できる。
ただし、線渦のまわりを一周すると速度ポテンシャルは元の値に戻らない。なぜなら、線渦を囲む閉曲線に沿った速度の線積分が循環 $\Gamma$ になるからである。つまり、
$$
\oint \B{u}\cdot \diff \B{x} = \oint \nabla\phi\, \cdot\, \diff \B{x} = \Gamma
$$
普通、単価のポテンシャルなら閉曲線積分はゼロになる。言い換えると、線渦のまわりでは、速度ポテンシャルは多価関数であると見なせる。
これは線渦の重要な特徴である。渦度は曲線上にのみ存在するが、その存在は周囲のポテンシャル流れの位相的性質にも反映される。
障壁面とポテンシャルのジャンプ
多価な速度ポテンシャルを単価にするためには、線渦を縁とする面を導入する手法を用いる。この面を障壁面またはカット面と呼ぶ。
この障壁面を横切ると、速度ポテンシャルは $\Gamma$ だけ跳ぶ。すなわち、ポテンシャルにはジャンプが存在するのである。
この考え方は、線渦を「面上の圧力ジャンプ」として解釈するためにも重要である。
要するに線渦を、瞬間的に生成する衝撃力の観点からも、ポテンシャルのジャンプを説明できる。ポテンシャル流れ(=渦なし)の領域では衝撃圧力は速度ポテンシャルと関係し、ポテンシャルが不連続になる障壁面は、衝撃圧力のジャンプを持つ面として振る舞う。
そのため、線渦のインパルスは、線積分だけでなく、障壁面上の面積分としても表されるのである。
面積分によるインパルス
線渦を縁とする障壁面を $S$ とする。このとき、線渦のインパルスは
$$
\B{I} = \Gamma \int_S \diff \B{S} \tag{8.1}
$$
と書ける。ここで $\diff \B{S}$ は向きを持つ面素である。これは、先ほどの線積分表示
$$
\B{I} = \frac{\Gamma}{2} \int \B{R}\times \diff \B{R}
$$
と等価である。両者の等価性はストークスの定理の拡張として理解できる。閉曲線が囲む向き付き面積ベクトルは
$$
\int_S \diff \B{S} = \frac{1}{2} \oint \B{R}\times \diff \B{R}
$$
で与えられる。したがって、
$$
\boxed{
\Gamma \int_S \diff \B{S} = \frac{\Gamma}{2} \oint \B{R}\times \diff \B{R}
} \tag{8.2}
$$
となる。この式は、線渦のインパルスが「循環 $\Gamma$ を持つ曲線が張る向き付き面積」によって決まることを明確に示している。
導出過程
$(8.2)$ の導出過程を示す。まず、任意の定ベクトル $\B{a}$ を用意する。このとき、以下が成立する。
$$
\B{a}\cdot \int_S \diff \B{S} = \int_S \B{a}\,\cdot\,\diff \B{S} \tag{8.3}
$$
さて、今度は以下の計算を考える。
$$
\nabla \times (\B{a}\times \B{R}) = \B{a}(∇⋅\B{R})−\B{R}(∇⋅\B{a})+(\B{R}⋅∇)\B{a}−(\B{a}⋅∇)\B{R} \tag{8.4}
$$
今、$\B{a}$ は定ベクトルのため、$\nabla \cdot \B{a} = 0, (\B{R} \cdot \nabla)\B{a} = 0$、そして、$\B{R}=(x,y,z)$ のため、$\nabla \cdot \B{R} = 3$ である、したがって、
$$
\begin{split}
\nabla \times (\B{a}\times \B{R}) &= \B{a}(∇⋅\B{R})−\B{R}(∇⋅\B{a})+(\B{R}⋅∇)\B{a}−(\B{a}⋅∇)\B{R} \EE
&= 3\B{a}-\B{0}+\B{0}-\B{a} \EE
&= 2\B{a}
\end{split}
$$
よって、
$$
\nabla \times \left( \ff{1}{2}\B{a}\times \B{R} \right) = \B{a} \tag{8.5}
$$
と言える。また、以下の面積分はストークスの定理より
$$
\int_S \left\{ \nabla \times \left( \ff{1}{2}\B{a}\times \B{R} \right)\right\}\,\cdot\, \diff \B{S} = \oint_C \left( \ff{1}{2}\B{a}\times \B{R} \right)\cdot \,\diff \B{R} \tag{8.6}
$$
という関係で結ばれる。そして、$(8.6)$ の右辺は $(8.5)$ で置き換えられるので、
$$
\int_S \B{a}\,\cdot\, \diff \B{S} = \oint_C \left( \ff{1}{2}\B{a}\times \B{R} \right)\cdot \,\diff \B{R} \tag{8.7}
$$
が導ける。$(8.7)$ の右辺はベクトル三重積の公式より
$$
\left( \ff{1}{2}\B{a}\times \B{R} \right)\cdot \,\diff \B{R} = \ff{1}{2}\B{a}\cdot \left(\B{R} \times \diff \B{R} \right) \tag{8.8}
$$
と言えるので、
$$
\begin{split}
\oint_C \left( \ff{1}{2}\B{a}\times \B{R} \right)\cdot \,\diff \B{R} &= \oint_C \ff{1}{2}\B{a}\cdot \left(\B{R} \times \diff \B{R} \right) \EE
&= \ff{1}{2}\B{a}\cdot \oint_C \B{R} \times \diff \B{R}
\end{split}
$$
と変形できる。これを $(8.7)$ に戻すと、
$$
\int_S \, \B{a}\,\cdot \diff \B{S} = \ff{1}{2}\B{a}\cdot \oint_C \B{R} \times \diff \B{R} \EE
\therefore\,\, \int_S \, \diff \B{S} = \ff{1}{2} \oint_C \B{R} \times \diff \B{R} \tag{8.9}
$$
が導ける。したがって、$(8.2)$ の結果
$$
\boxed{
\B{I} = \G \int_S \diff \B{S} = \frac{\G}{2} \oint \B{R}\times \diff \B{R}
}
$$
が得られる。
角運動量インパルスの面積分表示
角運動量インパルスも、障壁面を用いて
$$
\boxed{
\B{A} = \Gamma \int_S \B{x}\times \diff \B{S}
} \tag{9.1}
$$
の形で表せる。この式は、衝撃力のモーメントとして角インパルスを理解する際に自然に現れる。
線渦を生成するためには、障壁面上に衝撃的な圧力差を与える必要がある。この圧力差による力の合計がインパルスであり、そのモーメントが角インパルスである。したがって、面積分表示は、線渦のインパルスを「渦糸の幾何」だけでなく、「衝撃力分布」として解釈する手段でもある。
導出過程
$(9.1)$ を示すため、まずは定ベクトル $\B{a}$ を用いた以下の積分について考える。
$$
\B{a}\cdot \int_S \B{x}\times \diff \B{S} = \int_S \B{a}\cdot (\B{x}\times \diff \B{S}) \tag{9.2}
$$
上式はベクトル三重積の公式より
$$
\int_S \B{a}\cdot (\B{x}\times \diff \B{S}) = \int_S (\B{a}\times \B{x})\,\cdot\,\diff \B{S} \tag{9.3}
$$
ともできる。
次に、以下の計算を考える。
$$
\begin{split}
\nabla \times \left( -\ff{1}{2}x^2\,\B{a} \right) &= -\nabla \left( \ff{1}{2}x^2 \right)\times \,\B{a} \EE
&= -\B{x}\times \B{a} \EE
&= \B{a} \times \B{x}
\end{split}
$$
これを $(9.3)$ の右辺に適用すると、
$$
\int_S (\B{a}\times \B{x})\,\cdot\,\diff \B{S} = \int_S \left\{ \nabla \times \left( -\ff{1}{2}x^2\,\B{a} \right) \right\} \,\cdot\,\diff \B{S} \tag{9.4}
$$
さらにストークスの定理から
$$
\begin{split}
\int_S \left\{ \nabla \times \left( -\ff{1}{2}x^2\,\B{a} \right) \right\} \,\cdot\,\diff \B{S} &= \oint_C \left( -\ff{1}{2}x^2\,\B{a} \right)\cdot\,\diff \B{x} \EE
&= -\ff{1}{2}\B{a} \cdot \oint_C x^2\,\diff \B{x}
\end{split}
$$
が言える。これを $(9.3)$ に戻すと、
$$
\begin{split}
\int_S \B{a}\cdot (\B{x}\times \diff \B{S}) &= \int_S (\B{a}\times \B{x})\,\cdot\,\diff \B{S} \EE
\B{a}\cdot \int_S \B{x}\times \diff \B{S} &= -\ff{1}{2}\B{a} \cdot \oint_C x^2\,\diff \B{x} \EE
\therefore\,\, \int_S \B{x}\times \diff \B{S} &= -\ff{1}{2} \oint_C x^2\,\diff \B{x}
\end{split}
$$
が得られる。渦線上では、$\B{x} = \B{R}, \diff \B{x} = \diff \B{R}$ のため、上式を先程示した $(4.2)$ の結果と比較すると、
$$
\boxed{
\B{A} = \int_S \B{x}\times \diff \B{S} = -\ff{\G}{2} \oint_C R^2\,\diff \B{R}
}
$$
が導ける。
どの障壁面を選ぶべきか?
ここで注意すべき点がある。線渦を縁とする障壁面は一意ではない。同じ線渦に対して、異なるカット面を選ぶことができる。すると、面積分
$$
\B{I} = \Gamma\int_S \diff \B{S}
$$
の値が変わるように見える場合がある。
この点は一見すると、パラドックスのように思える。たとえば、管内に置かれた渦輪を考えると、ポテンシャルを単価にするための障壁面の取り方は複数ある。ある取り方では渦輪が張る円板を障壁面にできる。一方で、別の取り方では渦輪から管壁へ接続する環状の障壁面を選ぶこともできる。
すると、面積分で計算されるインパルスが異なるように見える。
しかし、これは本当の矛盾ではない。ポテンシャルや衝撃圧力の基準が無限遠や境界でどのように設定されているかを含めて考える必要があるからである。障壁面を変えると、ポテンシャルのジャンプの配置だけでなく、境界や無限遠における寄与も変化する。
したがって、線渦のインパルスを面積分で扱う場合には、障壁面だけを見て結論を出してはならない。ポテンシャルの値の取り方、境界条件、無限遠での寄与を合わせて考える必要がある。
見かけのパラドックスの意味
このパラドックスは、線渦という特異モデルの本質をよく表している。
線渦では、渦度は一本の曲線上に集中している。しかし、その流れ場は空間全体にわたって定義される。さらに、速度ポテンシャルは多価であり、それを単価にするためには人工的なカット面を導入しなければならない。
このとき、カット面は物理的な壁ではない。数学的にポテンシャルを扱うための補助的な面である。そのため、カット面の選び方に依存するように見える量が出てきた場合には、必ず境界や無限遠の寄与を同時に確認しなければならない。
本節の議論は、線渦のインパルスが単なる局所的な渦糸の量ではなく、ポテンシャル場の大域的構造と結びついていることを示している。
渦輪との関係
$(8.1)$ で示したように、渦輪を線渦として近似すると、そのインパルスは
$$
\B{I} = \Gamma S \B{e}
$$
と書けることが分かる。ここに $S$ は渦輪が囲む面積、$\B{e}$ は渦輪の軸方向単位ベクトルである。
円形渦輪なら
$$
S=\pi R^2
$$
なので、
$$
\B{I} = \pi \Gamma R^2 \B{e}
$$
である。
この関係は、渦輪の運動を理解するうえで非常に重要である。渦輪が進行する方向はインパルスの方向と一致し、渦輪のスケールや循環が大きいほどインパルスも大きくなる。
また、この式は、渦輪の変形を考える際にも役立つ。渦輪が楕円形に変形すれば、囲む面積ベクトルが変化し、インパルスの向きや大きさの解釈も変わる。複数の渦輪が相互作用する場合にも、各線渦の幾何形状からインパルスを評価できる。
線渦インパルスの意義
線渦のインパルスの式は、渦運動を幾何学的に見るための強力な道具である。
通常の流体運動では、速度場や圧力場を空間全体で解く必要がある。しかし、線渦近似では、渦糸の中心線の形状と循環が分かれば、インパルスや角インパルスを計算できる。
これは、渦輪、渦糸の絡み合い、渦管の変形などを理解するうえで大きな利点である。
特に、渦輪のような閉じた線渦では、インパルスは渦輪が張る面積ベクトルに比例する。これは、渦輪を一つの力学的単位として扱うための基本式である。
まとめ
今回の要点は次のように整理できる。
線渦とは、渦度を一本の曲線上に集中させた理想化モデルである。循環 $\Gamma$ を持つ線渦 $\B{R}(s)$ の流体力学的インパルスは
$$
\B{I} = \frac{\Gamma}{2} \int \B{R}\times \diff \B{R}
$$
で与えられる。角運動量インパルスは
$$
\B{A} = -\frac{\Gamma}{2} \int R^2\,\diff \B{R}
$$
で与えられる。また、線渦を縁とする障壁面 $S$ を導入すれば、流体力学的インパルスは
$$
\B{I} = \Gamma \int_S \diff \B{S}
$$
と表せる。円形渦輪では、この式からインパルスの大きさとして
$$
I=\Gamma\pi R^2
$$
が得られる。
ただし、障壁面の選び方には注意が必要である。速度ポテンシャルは線渦のまわりで多価になるため、単価化のために導入するカット面は一意とはならない。見かけ上異なるインパルスが得られる場合でも、境界や無限遠の寄与を含めれば矛盾は解消されることに注意が必要である。
このように、線渦のインパルスは、渦糸の循環と幾何形状を結びつける量である。渦輪を「循環を持つ曲線」として捉え、その運動量的性質を幾何学的に評価するための基本概念となる。
コメント