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ヘルムホルツ分解

 今回は、任意のベクトル場を回転なしの場と発散無しの場に分解する、ヘルムホルツ分解(あるいはヘルムホルツの定理)という手法について説明する。例えば、任意の速度場 $\B{u}(\B{x},t)$ に対してヘルムホルツ分解を適用すると、このように分解できる。

$$
\begin{split}
\B{u}(\B{x},t) &= -\nabla \phi(\B{x},t)+\nabla\times \B{A}(\B{x},t) \EE
&= -\grad\,\phi+\rot\,\B{A}
\end{split} \tag{1}
$$

ここに、$\phi$ と $\B{A}$ はそれぞれ、スカラーポテンシャルベクトルポテンシャルと呼ばれるのもので、回転無しの場と発散無しの場を表している。

※ ヘルムホルツ分解自体は、任意のベクトル場に対して成立するが、今回は流体力学の文脈で説明するため、速度場を例にしている。

 また、ヘルムホルツ分解の応用として、(非圧縮)ナビエ・ストークス方程式を分解した結果については、こちらで説明している。

ヘルムホルツ分解が一意となるための条件について

 ヘルムホルツ分解の導出を行う前に、この分解が一意に定まるための前提条件を確認しておこう。

(i) 速度場 $\B{u}$ がソレノイダル(=非発散)。すなわち、$\div\,\B{u} = 0$

(ii) 流体の占める領域 $V$が単連結。($V$ 内の任意の閉曲面 $S$ で囲まれた内部の点がすべて $V$ に属する)

(iii) 考えている境界面 $S$ 上で、流速の法線成分 $\B{u}_n$ が与えられている。(ノイマン境界条件に相当)

(iv) (無限に広い領域を考えている場合にて)無限遠で流速が $\B{0}$ 。(ディリクレ境界条件に相当)

(v) 境界面 $S$ 上において、渦度の法線成分が $0$。

(vi) 渦度が有限領域に局在しており、その外側では渦度が $\B{0}$ あるいは、$1/r$ よりも早く減衰する。 
  (→ヘルムホルツの渦定理を考慮すれば、物理学的にs妥当な条件)

※ ベクトル場に時間依存があっても、考えている領域が時間に依らず一定かつ、(i)~(vi)の条件を満たせば、ヘルムホルツ分解は一意に定まる。

ヘルムホルツ分解の発見的導出

 見通しを良くするため、元の速度場 $\B{u}$ に含まれている、ソレノイダル(=非発散性)な速度場 $\B{u}_\RM{v}$ を導入しよう。このとき、(1)で導入したベクトルポテンシャルとはこのような対応関係があると言える。

$$
\begin{split}
\B{u}_{\RM{v}} = \rot\,\B{A}
\end{split} \tag{2}
$$

また、仮定より $\B{u}_{\RM{v}}$ はソレノイダルなので、

$$
\begin{split}
\div\,\B{u}_{\RM{v}} = \div\, \rot\,\B{A} = 0
\end{split} \tag{3}
$$

も言える。さらに、渦度の定義を考慮すると、

$$
\begin{split}
\rot\,\B{u}_{\RM{v}} = \B{\om} = \rot\, \rot \B{A}
\end{split} \tag{4}
$$

という対応があることも分かる。上式の右辺については、ベクトル解析の公式を用いてこのように変形できる。

$$
\begin{split}
\rot\,\B{u}_{\RM{v}} = \B{\om} &= \rot\, \rot \B{A} \EE
&= \grad \, \div \, \B{A}-\nabla^2 \B{A}
\end{split} \tag{5}
$$

条件(v),(vi)の下での $\div\, \B{A} = 0$ の成立と $\B{A}$ の一意性について

 議論は前後してしまうが、$\div \,\B{A} = 0$(条件(v),(vi)から成立することを後ほど示す)を課すと (5)は、

$$
\begin{split}
\nabla^2 \B{A} = -\B{\om}
\end{split}
$$

というポアソン方程式に帰結される。天下り的にはなるが、これの解は

$$
\begin{split}
\B{A} = \ff{1}{4\pi} \int_V \ff{\B{\om}’ }{r}\,\diff V
\end{split} \tag{6}
$$

となることが知られている( $r =|\B{x}| $ )。そして、(6)の両辺の発散を取るとこのようになるが、

$$
\begin{split}
4\pi\,\div\,\B{A} &= \int_V \div \left( \ff{\B{\om}’ }{r} \right)\,\diff V \EE
&= \int_S \ff{\B{\om’}\cdot \B{n} }{r} \,\diff S \quad(\text{ガウスの発散定理より}) \EE
\end{split} \tag{7}
$$

このとき、条件(v)から$\B{\om’}\cdot \B{n} = 0$ と言える。また、(vi) から $V$ の外側では渦度が $\B{0}$ あるいは $1/r$ よりも早く渦度が減衰するゆえに、

$$
\begin{split}
\div\,\B{A} &= 0
\end{split}
$$

が成立すると言える。また、(6)から $\B{A}$ が(定ベクトルを除いて)一意に定まることが分かる。

条件 (i),(iii),(iv) の下でのスカラーポテンシャルの一意性について

 次に、(1)の両辺の発散を取ってこれに条件(i)を適用すると、

$$
\begin{split}
\div\,\B{u} &= -\div\,\grad\,\phi+\div\,\rot\,\B{A} = 0
\end{split} \tag{8}
$$

(3)から $\div\,\rot\,\B{A} = 0$ と言えるので、

$$
\begin{split}
-\div\,\grad\,\phi = -\nabla^2 \phi = 0
\end{split} \tag{8}
$$

というラプラス方程式が導かれる。

 さて、このラプラス方程式が(定数部分を除いて)一意に定まるためには、適切な境界条件が必要になるのだが、それを与えているのが条件(iii)あるいは(iv)である。

 (iii)はノイマン条件に相当し、(iv)はディリクレ条件に相当する。これらの境界条件によりスカラーポテンシャル $\phi$ が(定数部分を除いて)一意に定まるのである。

条件(ii)の意義について―スカラーポテンシャルが一意に定まるための鍵

 少し高度な話にはなるが、条件(ii)を課す理由について最後に説明しておこう。

 結論としては、条件(ii)の「流体の占める領域 $V$が単連結」を課すことは、大域でのベクトル場のポテンシャル $\phi$ を一意に定義できるようにするためである。( (i),(iii),(iv)だけでは、大域的なポテンシャルが一意に定まらない可能性があるのである )

 どういうことかと言えば、単連結であることで、どんな単純閉曲線 $C$ を採ってきても、最終的に点にまで縮められるという性質を使うことができて、したがって、渦無し流れの速度場 $\B{u} = \nabla \phi$ の循環 $\G$ が常に、

$$
\G = \int_C \B{u}\cdot \diff \B{s} = \int_C (\nabla \phi)\,\cdot \diff \B{s} =0
$$

とできるのである。上式は、大域的にただ一つの $\phi$ が存在するための条件ともなる。したがって、(ii)が大域でのベクトル場のポテンシャル $\phi$ を一意に定義する条件となるのである、

 

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